傀儡の恋
08
「選べないなら、誰にも奪われないようにするしかないのではないか?」
ラウの話を聞き終わったギルバートがこう言ってくる。
「……過激だな」
苦笑とともにそう言い返した。
「そうかな?」
ギルバートはそう言いながらグラスに手を伸ばす。そして、喉をしめらすように中身を口に含んだ。
「失ってから後悔するよりはマシだと思うがね」
そして自嘲の笑みとともに言葉を吐き出す。
「彼女のことか?」
彼が何を後悔しているのか。すぐにわかる。
「遺伝子の相性一つで全ての感情を捨てられるなら、いっそ、遺伝子で縛られる世界にしてしまえばいいとは思わないかね?」
彼はそう言って嗤う。
「その前に私が世界を壊すかもしれないが?」
即座にそう言い返す。
「それならばそれでかまわないよ。君が世界を壊しても、全ての人類が滅ぶとは限らないからね」
むしろ好都合だ。ギルバートはそう言う。
「人は秩序を必要とする存在だよ? 作るにしても壊すにしてもね」
確かに、壊すためにはその対象が必要か。その考えには一応同意しておく。
「人々が混乱に陥っているときならば、望み通りの秩序を作るのも難しくあるまい」
そう続けると、ギルバートはグラスの中身を飲み干す。
「それが君の復讐か」
ラウは小さな声でそう告げた。
「……どうだろうね」
それに対してギルバートは即答してこない。むしろ、虚を突かれたというような表情を作っている。
「どちらにしろ、好きにすればいい。君の人生だ」
ラウはそう告げた。
「そうさせてもらうよ」
ギルバートはためらう様子も見せずに言い返して来る。
「君の行動は私にとってもプラスになる。だから、協力は惜しまないつもりだ」
「あてにさせてもらおう」
自分は普段プラントにいない。どうしても戦艦の中では行動が制限されてしまう。
その分を彼がフォローしてくれるならば心強い。
「とりあえずは、そのキラという少年の情報かな?」
小さな笑い声を漏らしながら彼はそう言った。
「何故そうなる」
もっと別の情報を、とラウは呟く。
「必要だろう? もし、彼の家族があちらに捕まっているなら対策をしなければいけないだろう?」
ギルバートはそう言い返してきた。
「……そうかもしれないが……」
可能性としては否定できない。しかし、あの男がそんな手段を認めるとも思えないのだ。
「何。任せておきたまえ」
ギルバートはそう言いながらグラスにまた琥珀色の酒をつぐ。
「レイの実習にもちょうどいいだろうしね」
「……君はあの子に何をさせているんだい?」
続けられた言葉にあきれたような声音で言い返す。
「君の役に立ちたいとがんばっているだけだよ。後でほめてあげてくれるかな?」
レイは私と同じ遺伝子を持っているはずなのに、ずいぶんと性格が違う。これも周囲の影響なのだろうか。
「そうだね。そうしよう」
確かにレイは私の家族だ。だから素直に助言を受け入れよう。そう考えていた。
しかし、人の縁というのは本当に厄介なものだ。これほど複雑に絡み合っているとはこの時はまだ考えてもいなかった。